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【会社終活】知っておくべき借金とのつきあいかた

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野上 智之

株式会社エクステンド 広島県出身、公立大学法人北九州市立大学商学部経営学科卒業。 大手システム会社を経て、教育研修会社での新規部門立上げや西日本責任者としての実践により、収支損益の黒字化と人財育成がなければ、企業は元気にならないという強い信念のもと中小企業に特化した経営コンサルタントに転身。 現在も10社を担当し、各地でセミナーや研修を行っています。...続きを読む

監修

経営承継支援編集部

この記事は、株式会社経営承継支援の編集部が監修しました。M&Aに関してわかりやすく役に立つ記事を目指しています。

目次 [ ]

【会社終活】知っておくべき借金とのつきあいかた

金融支援の詳細

1. 資金調達

 

金融機関が、融資してまで中小企業を再生支援できるようにするためには、計画書の策定は必須です。

もっと言えば、破綻懸念先や要管理先を要注意先に位置付けることが可能な計画書の策定です。

 

(1) 実抜計画(現実可能性の高い抜本的な経営再建計画)

 

実抜計画とは、金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」に定める「実現可能性の高い」および「抜本的な」についての要件を満たす計画です。

監督指針では、条件変更債権であっても実抜計画に沿った金融支援の実施により経営再建が開始されている場合には当該経営再建計画に基づく貸出金は貸出条件緩和債権に該当しないものと判断してさしつかえないとしています。

実抜計画の数値基準としては金融庁の「貸出条件変更緩和債権関係Q&A」(問28)において、おおむね3年後(中小企業の場合、おおむね5年)に到達すべき状態として、「経営黒字化、実質債務超過解消」「有利子負債のキャシュフローに対する比率が10倍以内になること」等が示されています。

中小企業の場合、一般に実抜計画の数値基準としては、「3年以内の経常黒字化、5年以内実質債務超過解消、債務超過解消時の有利子負債キャッシュフロー比率10倍以内」が用いられます。

 

(2) 合実計画(合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画)

 

金融検査マニュアルでは、合実計画の要件として、計画期間終了時の当該債務者の債務者区分が原則として正常先となる計画であることを求めています。

しかし但書で、計画期間終了後の当該債務者が金融機関の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能となる場合は、計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が要注意先であってもさしつかえないとしています。

計画期間は、おおむね5年以内、ただし5年を超え、おおむね10年以内となっている場合で経営改善計画等の策定後、その進捗状況がおおむね計画どおりであり今後もおおむね計画どおり推移すると認められる場合を含むとされています。

さらに、「金融検査マニュアルに関するよくあるご質問」(9-51)では、「当面、計画期間が5年を超え概ね10年以内となっている場合であっても、明らかに達成困難と認められなければ、策定直後であっても合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画とみなして差し支えない旨、検査官に対して指示しています。」とあります。

計画期間10年間の計画で10年後に金融機関の再建支援を必要としない要注意先以上となる見込みの場合には、経営改善計画の策定直後であっても数字基準面では合実計画に該当すると考えられます。

合実計画での数値基準としては、一般に「3年以内の経常黒字化、10年以内実質債務超過解消、債務超過解消時の有利子負債キャッシュフロー比率10倍以内」とされています。

 

(3) 融資の原則

 

融資が実行されるかされないかは、使途・財源・保全・期間・レートの5つで決まります。

ここでは、3つを説明します。

① 資金使途

資金使途とは、何にお金を使うのかです。

大別すると、運転資金と設備資金に分けられます。

 

② 返済財源

財源とは、どうやって返済していくのかです。

短期資金の場合は回収金です。

長期資金の場合は、当期純利益+減価償却費です。

そして、返済財源>元本返済額となることが理想です。

 

③ 保全

返済できない場合、どうやって補てんするのかです。

具体的には、担保や保証人です。

 

(4) 事業性評価の定義

平成26事務年度金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)には、「金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し(事業性評価)、融資や助言を行い、企業や産業の成長を支援していくことが求められる。」と記載されています。

 

(5) 民法の一部を改正する法律(2020年4月1日施行)

個人が事業用の融資の保証人になる場合、公証人による保証意思の確認手続きが必要になります。

(公正証書の作成と保証の効力)

第465条の6

1.事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。

2. リスケジュール(rescheduleリスケ)

 

リスケジュールとは、金融機関と交渉して借入条件の変更をしてもらうことです。

具体的には、業績が悪化して資金繰りが厳しくなった際、当初の返済計画を見直し、返済可能な計画に変更してもらうことです。

 

(1) 中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)

リーマン・ショックを契機に中小企業の資金繰り支援のために平成21年12月、当時の亀井静香金融相主導で立法化されました。

当初は、平成23年3月31日までの時限立法でしたが、金融庁は平成24年3月31日まで延長する方針を発表し、さらに平成25年3月31日まで再延長する方針を発表しました。平成25年3月31日、延長されずに本法は失効しました。

しかし、中小企業金融円滑化法の期限到来後においても、金融機関は、同法の精神を遵守し、従来と変わりなく真摯に取り組んでいます。

しかし、旧来のビジネスモデルを温存したままの救済策が、企業の新陳代謝を阻み、ゾンビ企業の増殖を招いたとも言われています。

令和2年3月6日、新型コロナウイルス感染症の影響拡大を踏まえた事業者の資金繰り支援について、麻生太郎財務・金融相が公表しました。

預金取扱金融機関に対し、返済猶予を含む融資条件の変更を求める内容であり、リーマン・ショック後に成立した「中小企業金融円滑化法」を実質的に復活させるものです。

合わせて、平成31年3月より休止していました「貸付条件の変更実施状況の報告」を再開させ、金融機関によるリスケを促しました。

 

(2) 経営改善計画書

金融機関にリスケジュールを承諾いただくためには、今後どうやって経営を改善していくのかを記載した、経営改善計画書を金融機関に提出しなければなりません。

経営改善計画書の内容に信憑性がなければ、リスケジュールを認めてもらえないこともあります。そのためにも、数字には根拠を明確にして記載します。

掲載内容には、企業概要・課題問題点・経営改善計画策定の基本方針・計画期間・改善目標などがあります。

 

(3) リスケジュールのメリット

□  一時、倒産を回避できます。

□  経営改善のための時間的猶予がもらえます。

□  元金の返済を半年から1年間、待ってもらえます。

□  資金繰りが楽になります。

□  延滞になりません。

 

(4)  リスケジュールのデメリット

□  利息は返済する必要があります。

□  金融機関の債務者区分が下がります。

□  新規の融資が出にくくなります。

□  リスケジュールを継続する場合、更新依頼が必要です。

□  金融機関との関係が希薄になります。

 

(5) リスケジュールの具体例

金融機関からの借入金を予定どおりに返済したいが、どうしても返済できないという状況が発生したことを丁寧に説明し、ご迷惑をおかけする事態に対して、心よりお詫びします。

金融機関への元金返済額を下げるポイントは、資金繰り表となります。

3. DES(Debt Equity Swap)

 

DESとは、企業の債務を資本に交換するものです。

一定の収益を計上する見込みはあるものの、過去の損失等により債務超過に陥っている企業に対して、金融機関が保有する貸付金を株式に振り替えることで、企業の財務内容を改善します。

ただ、非公開・非上場の企業について、DESによる再生計画は少ないと思われます。

 

(1) DESスキーム

 

① 現物出資方式

債権者が債権を現物出資して株式を取得します。こちらが一般的です。

 

② 新株払込方式(疑似DES)

債権者が第三者割当増資を行い、それによって振り込まれた資金を債務の返済に充当します。

この場合、債務を返済する資金を用意する必要がありますので、事業再生の場面では、あまりないでしょう。

 

(2) 債権の評価方法

 

① 券面額説

債権の額面で評価します。

 

② 時価評価説

債権の時価で評価しますので、DES対象債権の時価評価が必要です。

債務者においては、会計上は、券面額説および時価評価説のいずれも認められますが、税務上は、平成18年税制改正により、時価評価説をとることが明確化されています。

債権者においては、会計上も税務上も時価評価説がとられています。

 

(3) 取得する株式

 

① 無議決権株式

金融機関が他の会社の株式を取得する場合、金融商品取引法による議決権の保有制限があります。よって、議決権のない無議決権株式が利用されることが多いです。

 

② 取得請求権付株式

取得請求権付株式とは、株主が会社に対して保有する株式の買い取りを請求できる権利がついた株式です。

多くの中小企業の場合、株式に市場性がないため、金銭を対価として買い取りを請求できるようにしています。

 

③ 剰余金の配当および残余財産の分配についての優先株式

剰余金の配当とは、会社が生み出した利益を、株主に分けることです。

残余財産の分配とは、会社経営が立ち行かなくなり解散・清算する場合に、負債をすべて返し終わった後に会社に残った財産を株主に分けることです。

無議決権株式とのバランスにより、優先株式が利用されます。

 

(4) DESのメリット

□  負債が減り自己資本が増加します。

□  債務を株式に替えることで、元本と利息の支払いがなくなります。

□  債権者は、債務者企業が再生した場合、保有株式から売却益や配当収入を得られます。

□  債権者が株式を取得することで、債務者のモラルハザードを防げます。

 

(5) DESのデメリット

□  債権から株式へ変更されることで、金融機関には大きな障害が生じます。

□  取得した株式を換金することが事実上難しいです。

□  債権者が株主になるため、従来よりも経営に干渉してきます。

□  金融機関によるDESの場合、通常は非適格現物出資となり債務消滅益が発生し、税務上の対応が必要です。

4. DDS(Debt Debt Swap)

 

DDSとは、金融機関が既存の貸出債権を他の一般債権よりも返済順位の低い、劣後ローンに切り替える手法のことです。

具体的には、対象企業の過剰債務状態を解消して財務面の再構築を図り、再建可能性を高めるために、金融機関が合理的かつ実現性の高い再建計画と一体で対象企業に対して有する既存の貸出債権を劣後化することで、実質的に対象企業の財務状態を改善して信用力や再建可能性を高める仕組みです。

DDSは一定の要件を満たした場合、金融機関の自己査定における債務者区分の判断において自己資本とみなすことができます。

 

(1) 再生に向けて

実質債務超過解消に10年以上かかるような状況のままでは、再生とは言えません。しかし、借入を劣後化すれば、合実計画といえる計画を策定することができ、要注意先へランクアップさせることが可能となります。

DDSを行わない場合でも行った場合でも、現実にあった返済額しか企業は返済できませんので、DDSを行いランクアップさせたほうが、金融機関・企業ともにメリットがあります。このように、金融機関は再生スピードを早める役割を担っています。

 

(2) DDSのメリット

□  債権を消滅させることではないので、金融機関にとってDESより受入れやすいです。

□  自己査定において債務者区分のランクダウンを回避できます。

□  企業は、債権放棄と異なり債務免除益が生じないため、税金の問題は生じません。

□  債務の支払い期限が事実上延長されるため、資金繰りが安定します。

□  DDS部分を疑似資本とみなすことにより、債務超過額を圧縮できます。

□  株式を発行しないので、議決権行使などの経営に参画されません。

 

(3) DDSのデメリット

□  元金を返済する必要があります。

□  金利を支払う必要があります。

□  金利の引上げが、資金繰り圧迫要因になる場合があります。

□  コベナンツなどの契約条項による一定の監視が行われます。

 

(4) 早期経営改善特例型DDS

 

資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)とは、従来の「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」において記載されていたものを、准資本型と区別する上で改めて定義したもので、中小・零細企業向け要注意債権を対象にしたものです。

特例型DDSは、「十分な資本的性質」があるか否かを問わず、別冊7.資本的劣後ローンの取扱い(1)の諸要件を満たすことで、債務者区分等の判断において資本とみなすことができます。

 

7.資本的劣後ローンの取扱い

(1)金融機関の中小・零細企業向けの要注意先債権(要管理先への債権を含む)で、貸出債権の全部または一部を債務者の経営改善計画の一環として、原則として以下の要件の全てを満たす貸出金(以下、「資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)」という。)に転換している場合には、債務者区分等の判断において、下記(2)を満たすことを条件として当該資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)を当該債務者の資本とみなすことができる。

なお、資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)への転換は、合理的かつ実現可能性が高い経営改善計画と一体として行われることが必要である。

①資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)についての契約が、金融機関と債務者との間で双方合意の上、締結されていること

②契約内容に、原則として以下の全ての条件を付していること

イ.資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)の返済(デフォルトによらない)については、資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)への転換時に存在する他の全ての債権及び計画に新たに発生することが予定されている貸出債権が完済された後に償還が開始すること

ロ.債務者にデフォルトが生じた場合、金融機関の資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)の請求権の効力は、他の全ての債権が弁済された後に生ずること

ハ.債務者が金融機関に対して財務状況の開示を約していること及び、金融機関が債務者のキャッシュフローに対して一定の関与ができる権利を有していること

ニ.資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)がハ.その他の約定違反により、期限の利益を喪失した場合には、債務者が当該金融機関に有する全ての債務について、期限の利益を喪失すること

(2)資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)を資本とみなすに際しては、金融機関において当該資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)の引当につき、「資本的劣後ローン等に対する貸倒見積高の算定及び銀行等金融機関が保有する貸出債権を資本的劣後ローン等に転換した場合の会計処理に関する監査上の取扱い」(平成16 年11 月2日日本公認会計士協会)を参照の上、会計ルールに基づいた適切な引当を行うこととする。

 

 

(5) 准資本型DDS

債務者区分は問わず、破綻懸念先を想定しています。また、償還期間が長期であることや金利が業績連動型であること等資本に近い性質です。

准資本型DDSは、「十分な資本的性質」を有しているため、別冊(7.資本的劣後ローンの取扱い)(3)に基づき債務者区分等の判断において資本とみなすことができます。

(出所:金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕)

(3)貸出債権の全部または一部を十分な資本的性質が認められる劣後ローン(以下「資本的劣後ローン(准資本型)」に転換している場合には、債務者区分等の判断において、上記(1)の諸条件を満たしているか否かにかかわらず、資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト「自己査定」(別表1)1.(3)の(注)により、当該資本的劣後ローン(准資本型)を当該債務者の資本とみなすことができることに留意する。

(参考)資産査定管理態勢の確認検査用チェックリスト自己査定(別表1)の1.の(3)の(注)

「債務者の実態的な財務内容」の把握にあたり、十分な資本的性質が認められる借入金は、新規融資の場合、既存の借入金を転換した場合のいずれであっても、負債ではなく資本とみなすことができることに留意する。

 

(6) 早期経営改善特例型と准資本型の違い(出所:日本政策金融公庫中小企業事業本部企業支援部[著]『金融機関が行う私的整理による事業再生の実務(改訂版)』一般社団法人金融財政事情研究会、2019年を加工して作成)

(7) 中小企業再生支援協議会版「資本的借入金」(協議会版資本的借入金)

平成20 年10 月3 日、中小企業庁ホームページにおきまして、「中小企業再生支援協議会における新たな再生支援手法の導入について」と題して、中小企業再生支援協議会版「資本的借入金」(協議会版資本的借入金)を用いた再生支援手法が、公表されました。

同日、金融庁が改訂した「金融検査マニュアル」等では、「協議会版資本的借入金」に該当する劣後ローンは、株式会社日本政策金融公庫の挑戦支援資本強化特例制度と同様、「十分な資本的性質が認められる借入金」として同庁の検査において自己資本と見なすことができる、との見解が示されています。

協議会版資本的借入金では、実抜計画または合実計画基準を満たす経営再建計画の策定が求められています。

また、複数の金融機関からの借入金がある場合、原則として、非保全プロラタにより金融機関ごとに金融支援額が配分されます。

 

 

(8) 日本政策金融公庫中小企業事業

日本政策金融公庫中小企業事業では、新規事業や企業再建等に取り組む中小企業の財務体質強化を図るために資本性資金を供給する「挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)」を提供しています。

本特例による債務については、金融検査上自己資本とみなすことができます。

返済期間は、15年、10年、7年、5年1か月の期限一括償還です。

5. 債権カット

債権カットは、債権者が金融支援を行う債務者の債権を直接放棄するものです。

これにより、債権放棄された金融債務が消滅し、借入金返済負担が軽減されるとともに、債務免除益により債務超過が縮小し財務面の改善が図られます。

通常、債権放棄は債務超過金額の範囲内で実施され、債権放棄後に債務超過金額が残る場合には、再建策の実行により、計画 3 5 年目を目途に解消されるように再生計画が策定されます。

 

(1) 債権 カット 金額

債権カット 金額は、実抜計画の数値基準を満たす水準が求められます。

したがって、計画 3 年目までに経常利益の黒字化、 計画 3 5 年目までに債務超過解消、債務超過解消時の債務償還年数 10 年以内を満たす水準となります。

 

(2) 非保全プロラタと残高プロラタ

金融債務は担保で保全されている保全金額と保全されていない非保全金額に分けられます。

債権カットは、非保全金額から行われます。

よって、事業再生のために必要となる債権放棄金額を各金融機関の非保全金額シェアで配分することにより、金融支援要請が行われます。

 

(3) 経営者責任等

債権放棄等を行う場合、経営者責任の明確化が求められます。原則、経営者は退任します。
また、株主責任の明確化も求められます。
さらに、保証人に保証債務の履行が求められます。保証人は私財の開示内容について表明保障し、万一事実と異なれば、保証免除が取消しになります。

 

(4) 債務者の税務

私的整理により債権カットが行われると、債務者には債務免除益が発生します。

税務上はこの債務免除益は益金に算入され、原則として債務免除益以上の損金がないと納税負担が発生します。

これでは事業再生の実現が困難となることから、税務上は一定の債務 免除等を受けた場合に課税上の特例を定めています。

・ 青色欠損金の繰越控除
・ 合理的な再建計画に基づく資産の整理があった場合の特例
・ 企業再生税制

6. 代位弁済

 

多くの中小企業は、金融機関から融資を受ける際、信用保証協会の保証を付けます。

その後、その返済が滞ると信用保証協会が借入先金融機関へ代位弁済し、中小企業は信用保証協会や保証協会債権回収株式会社(保証協会サービサー)から残債務の一括請求を受けることになります。

 

(1) 信用保険制度(出所:一般社団法人全国信用保証協会連合会HP)

信用保証協会が中小企業・小規模事業者の保証委託申込に応じて保証を承諾し、金融機関から融資が実行されると、中小企業・小規模事業者の資格、借入金の使途、保証金額等一定の要件を備えた保証についてはすべて、中小企業信用保険法に基づく信用保険に付保される仕組みになっています。

これを包括保証保険制度といいます。

この場合、信用保証協会は、保険の種類ごとに定められた保険料を(株)日本政策金融公庫に支払うことになっています。

信用保証協会の保証によって融資を受けた中小企業・小規模事業者が、所定期限までに金融機関へ借入金の返済を行わない場合、その事実が金融機関から信用保証協会に通知され、信用保証協会は中小企業・小規模事業者に代わって金融機関に弁済します。

この代位弁済が信用保険上の保険事故であり、この代位弁済額の70~90%(この率を保険填補率といいます。)を保険金として(株)日本政策金融公庫から信用保証協会が受領します。

信用保証協会はこの保険金を受領後、中小企業・小規模事業者からの弁済の都度、その回収金を保険填補率に応じて(株)日本政策金融公庫に納付します。

 

(2) 代位弁済

代位弁済とは、主債務者が借入の返済を滞った際、保証人や連帯保証人が代わって返済することにより、主債務者に対して求償権を取得する場合の弁済をいいます。

通常、信用保証協会による保証付き融資では、債務者は支払いを90日間延滞した場合に、期限の利益を喪失します。

 

(3) 期限の利益の喪失

中小企業の借入には、返済期限が定められています。

この期限によって中小企業は、期限が到来するまでは返済義務が生じないという利益が生じます。

この期限の利益により、中小企業は借入した資金を期限までの間、運用することができます。

したがって期限の利益の喪失とは、中小企業が期限の利益を失うことを意味します。

期限の利益が失われた場合、借入金の全額を直ちに返済しなければなりません

 

①  当然喪失条項

ある一定の条件が整えば自動的に期限の利益が失われることになる条件を記載しています。

破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始もしくは特別清算開始の申立があったとき、

手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けたとき、

弁護士等へ債務整理を委任したとき、または自ら営業の廃止を表明したとき等、支払を停止したと認められる事実が発生したときなどです。

 

②  請求喪失条項

一定の条件が整い、かつ、金融機関が中小企業に「期限の利益の喪失」を請求することで、期限の利益が失われる条件を記載しています。

債務者が債務の一部でも履行を遅滞したとき、

担保の目的物について差押、または競売手続の開始があったとき、

保証人が前項などの一つにでも該当したときなどです。

 

(4) 代位弁済のメリット

□  金融機関へ支払利息を払わなくてもよくなります。

□  支払っていた支払利息分だけ資金繰りが改善します。

□  毎月の分割返済額が減額されます。

□  リスケ更新の度に支払っていた保証料を払わなくてよくなります。

□  元本優先弁済なので、返済すれば元本が減ります。

 

(5) 代位弁済のデメリット

□  借入の担保に入っている物件があれば、売却しなければなりません。

□  連帯保証人へ督促されます。

□  保証付融資を受けている銀行口座は凍結されます。

□  新たな借入はできません。

□  遅延損害金を請求されます。

□ 信用情報機関に事故登録されます。

 

(6) 代位弁済の流れ

ⅰ.90日以上の延滞で、期限の利益を喪失

ⅱ.期限の利益を喪失したという内容証明が届く

ⅲ.金融機関が信用保証協会へ代位弁済の請求

ⅳ.信用保証協会が金融機関へ代位弁済

ⅴ.信用保証協会が債務者へ求償権の行使

ⅵ.債務者は信用保証協会へ求償債務を弁済

 

(7) 通知書

当協会は金融機関の請求により下記の通り代位弁済を履行し求償債権(代位弁済総額及び代位弁済日の翌日より完済に至るまでの損害金年14.0%)を取得しました。

つきましては、貴殿及び連帯保証人殿が既に返済計画を履行又は提示されていない場合は本書到着後14日以内に下記金額並びに完済に至るまでの損害金を併せて当協会にご持参されるか返済計画をご来協のうえ提示して下さい。

顧客番号×××××××債務者名(株)〇〇〇〇〇

なお、保証協会は敵ではありません。

返済が困難な状況にあることは十分に理解してくれます。

素直に現状を話せば、無理のない小額分割払いにも応じてくれます。

 

7. 債権回収会社(サービサー)

平成11年2月1日、我が国の金融危機を背景に、弁護士法の特例として「債権管理回収業に関する特別措置法」が施行されました。

サービサーは、その法律に基づき、法務省の監督下で設立・運営される株式会社です。

それ以来サービサーは、金融機関の不良債権問題の解決のため、業界一体となって尽力してきました。

また、サービサーの役割は不良債権の管理・回収だけでなく、中小企業等の事業再生、事業承継、あるいは再チャレンジの支援を行い、地域経済の発展に寄与していくという新たな役割もあります。

 

取引先の中心は中小企業であり、金融庁も中小企業の債務整理の役割を担う存在として連携を提唱しています。

 

(1) 一般社団法人全国サービサー協会

債権管理回収業に関する特別措置法に基づいて設立された債権回収会社(サービサー)の自主規制団体です。平成12年10月16日任意団体として全国サービサー協会を設立し、その後、平成21年4月1日に一般社団法人化しています。

 

(2) サービサーの分類

サービサーの分類にはさまざまな見方がありますが、設立母体などで分類しますと、以下のようになります。

銀行系、証券系、リース・ファイナンス系、信販・消費者金融・カード系、不動産系、外資系、独立系があります。

 

(3) 特定金銭債権

金融機関等から委託を受けまたは譲り受けて、特定金銭債権の管理回収を行います。

特定金銭債権とは、金融機関等が有する貸付債権、リース・クレジット債権、資産の流動化に関する金銭債権、ファクタリング業者が有する金銭債権、法的倒産手続中の者が有する金銭債権、保証契約に基づく債権、その他政令で定める債権などです。

 

(4) 債権回収会社(サービサー)の業務状況について(出所:平成31年3月法務省)

 

当期における特定金銭債権の取扱実績

 

 

(5) 債権回収会社のメリット

□  国から認定を受けた会社なので安心です。

□  金融機関は、不良債権を回収する時間や手間を省けます。

□  金融機関は、不良債権を税務上の損金として処理でき無税償却が可能です。

□  返済方法について、より柔軟に対応してくれる可能性があります。

□  債務者は大きな債務免除が可能です。

 

(6) 債権回収会社のデメリット

□  借入した金融機関ではなく、債権回収会社から督促書面が送られてくるので驚きます。

□  差押えの可能性があります。

□  取引行の預金を相殺されます。

□  債務者は、債務免除益が発生することになり、その対応が必要です。

□  地方銀行・信用金庫・信用組合は、サービサーの活用に消極的です。

 

(7) メガバンクの対応

年商6億、借入金6億、営業利益は出ており、年間4千万円の元金を金融機関へ返済しているシステム開発会社の事例です。

過去のM&Aが上手くいかないことが、この会社の困窮要因でした。

取引金融機関数は10行と多く、既に期限の利益を喪失した金融機関は3行、条件変更した金融機関は7行です。

メガバンクは、積極的にサービサーの活用を提案してきました。

これにより、大幅な債権カットに期待が持てます。

しかし、地域金融機関はサービサーの活用に消極的であり、上記のようなバラツキが出ているのです。

8. 企業再生ファンド

 

事業再生や経営再建の必要な企業の立て直しを目的に、投資家から資金を集め、再生ビジネスに関与するファンドのことです。

 

(1) デット型

再生対象企業の取引金融機関から金融債務をファンドが時価で買い取り、その後、大口債権者の立場から、再生対象企業の再生支援を行います。

再生対象企業が再生して金融機関からの新規融資が受けられるようになった段階で、買取債権の一部の債権放棄と残債権のリファイナンスが行われます。

ファンドはリファイナンスによる債権回収金額から買取価格および諸費用等を差し引いた金額を利益として計上し、投資家に配当を実施します。

エクイティ投資と併用する場合もあります。

 

(2) エクイティ型

再生対象企業の株式を取得し、株主として再生対象企業の再生手続きを行います。

再生ファンドは企業価値を高め、取得した株式を株式公開または再生対象企業の経営者等に売却することによって株式売却益を得て、投資家に配当を実施します。

 

(3) 官民ファンド中小企業再生ファンド(出所:中小企業基盤整備機構HP)

中小企業の再生支援を目的として設立される投資事業有限責任組合です。

民間投資会社・地域金融機関・中小企業基盤整備機構などが出資し、財務上の問題を抱えるが事業見直しなどにより再生可能な中小企業を対象に中長期的な投資を通じて支援を行います。

ファンドの運営(個別企業への投資)は、各投資会社が行います。

LP(リミテッドパートナー)、GP(ジェネラルパートナー)

 

①  再生ファンドのメリット

□  運転資金の提供や債権の買い取りもします。

□  中立性が保てます。

□  金融機関にとって対外的な説明がしやすいです。

□  具体的な再生計画を立てます。

□  ハンズオン支援があります。

 

②  再生ファンドのデメリット

□  LPの各金融機関が共同出資かつ案件持込みになっているので、再生実現性の高い債務者のみが再生ファンドの投資対象になりやすいです。

□  金融機関が債権売却に応じなければ成立しません。

□  経営に関与してきます。

□  投資期間が明確に定められおり、投資継続ができません。

□  対象企業側が事業再生ファンドの望む価額で株式を買い戻せないときがあります。

 

(4) サービサーが運営する民間ファンド

運営主体がサービサーであるので、金融機関と異なり、資金繰りや経営環境によって、元利金が約定どおりにいかない債務者に対し柔軟な対応が可能です。

また、経営者責任などについても柔軟性をもって再生スキームを組むことが可能です。

 

(5) デット型の対応

5億円という借入過多、実質債務超過4億円という状況で長年リスケを継続しており、自力再生は不可能な学校給食を事業とする中小企業の事例です。

学校給食を事業とする中小企業は、地域にとってとても大切な存在です。

そこで、金融機関からその窮境中小企業に対する不良債権を再生ファンドに買い集めてもらい、金融機関は売却損を出します。

その後、窮境中小企業から買い手企業に株式譲渡される際、再生ファンドが債権放棄を実施し、再生ファンドの簿価に対して、金融機関からリファイナンスを受けイグジットします。

債務免除益が発生するときは、そのことを買い手企業にご理解いただき金額を設定します。

事業の「停止」ということを念頭に置きながら、様々な項目を挙げてきました。

しかし、ここに挙げた項目は、主に対金融機関についての対応であり、事業自体の転換には触れていません。

このことは別途、ご検討いただきたいと思います。

ここで改めて記載しますが、過剰債務といっても、お金を借りたのは経営者自身の判断です。

また、借りたお金を約束どおり返すことが当然であり、多くの中小企業は約束どおりに、金融機関へ返済しています

そのことは、忘れないでいただきたいと思います。

一方、過剰債務に陥った中小企業が、出口の見えないリスケを複数年続けることが正しい方法なのかと感じます。

手続きの透明性や公平性が確保された上で、出口へ向かうことが必要ではないかと思います。

 

ただ、事業の停止や抜本的な見直しに着手することは、とても勇気がいります。

また、多くの経営者にとっては初めての試みであり、金融機関がどのような対応をしてくるのかとても不安です。

 

しかし、ひとつひとつの内容を知ることで、その不安が少しでも解消され、前に進む決断ができたなら、本書の役割が多少なりとも果たせたと思います。

ここでもう一つ確認しておかなければならないことは、その支援を享受できる中小企業はすべてではないということです。

つまり、再生の対象となる事業に収益性や将来性があるなど事業価値があったり、関係者の支援により再生の可能性があったり、対象債権者にとっても経済合理性があったりすることです。

価値があれば踏み込んだ支援がされますが、そうでなければ市場からの撤退となることでしょう。そうならないように、常に事業を磨き上げる必要があり、自力では難しければ他力で行います。

最後になりますが、「新陳代謝」という言葉を噛みしめて、何をすべきかをご検討いただければと思います。

そして、会社は無くとも事業は活き、経営者の皆さまが幸せな人生を送っていただければ嬉しく思います。

株式会社経営承継支援は、一社でも多くの企業を廃業危機から救うため、全ての企業様のご相談をお受け致しております。
M&A(株式譲渡、事業譲渡等)に関して着手金無料でご相談可能ですので、お気軽にお問合せくださいませ。

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野上 智之

株式会社エクステンド 広島県出身、公立大学法人北九州市立大学商学部経営学科卒業。 大手システム会社を経て、教育研修会社での新規部門立上げや西日本責任者としての実践により、収支損益の黒字化と人財育成がなければ、企業は元気にならないという強い信念のもと中小企業に特化した経営コンサルタントに転身。 現在も10社を担当し、各地でセミナーや研修を行っています。

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